村上春樹について

 村上春樹の好きなところはというと、やっぱりこれも文章です。文章は、基本的に、できる限りシンプルな言葉で、そして短めの文章で表現されています。そして大抵、主人公もまたセルフコントロールのきいた、自分を若干客観的に見ているような人物であることが多いのですが、それにもかかわらず、文章から主人公の思いが溢れてくるところが、とてもいいです。

 最近はちょっと違いますが、初期3部作(風の歌を聴け、1973年のピンボール羊をめぐる冒険)、「ダンスダンスダンス」や「ノルウェイの森」、「国境の南、太陽の西」などのテーマは、愛する人やもしくは友人などの身近で大切な人の絶望を、理解し、共有し、救いたいと思っているにも関わらず、それがかなわず、結局その大切な人たちを自殺などで失くしてしまうというのが根底のテーマです。ただ、救いなのは、村上作品の全体の特徴として、主人公は基本自分に自信があるので(例えばあんまりカッコ良くないのに女性にモテたりします)、暗すぎて読むのが辛くなったりはしません。

 そのあたりの切ない作品も大好きなのですが、一番好きな作品はというと、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」です。この作品は、なぜ好きかを説明するのはとても難しいです。「ねじまき鳥クロニクル」とカテゴリー的には同じ作品かなと思いますが、まあ現実離れしたヘンテコな話です。現実離れしているのに、深くて、その意味を考えさせられるからおもしろいのかな。ちょっと長いですがよかったらぜひ。